GuilFest 2004 – Stoke Park, Guildford, England 16th July 2004
今年で13回目の「ギルフェスト」、イギリス南東部、ロンドン郊外のギルフォードで毎年行われる。元々は「ギルフォード・フェスティバル」と呼ばれ1日だけのものだったが、年々人気が高まり現在では4つのステージやテントで多くの大物バンドが出演する3日間のイベントとなり、イギリス国内でも上位にランクされるミュージックフェスティバルとなっている。ギルフォードのストーク・パークという広大な公園で開催。
7月16日、今年のギルフェストの初日。天気は良好。太陽にあたっていると暑い、と感じるが日本に比べればそれはもう快適。野外フェスはこのくらいが身体に良いに違いない、とつくづく思う。
夕方に到着。駅からは徒歩10分位だが、ストーク・パークまで行く道のりは特に人が溢れているわけでもない。フェスでは当たり前のリストバンドをもらう為に並ぶともう中も見える。そこにはビールを箱で持ってきている若者のグループやら小さい子供もいる家族連れ、出演バンドのTシャツはもちろんだが出演していないBauhaus(すでに解散)のTシャツを着ている人等、とにかくさまざま。
今回このGuilFestに来た一番の目的はもちろんThe Stranglers。だがこの日は彼らをはさんで前にThe Damned、そしてトリにBlondieという魅力的なラインナップ。彼らはBBC RADIO 2のメインステージに登場する。
他にも2日目、3日目にはSimple Minds, Katie MeluaそしてUB40, Ocean Colour Scene等が出演。
The Damnedは1度解散はしたものの、その後再結成して活動。今年は日本のフェスティバルにも出演。かなり早い時期から活動していてイギリスからアメリカに遠征した初めてのロンドンパンクバンドでもある。時間が近づくとどこからともなくダムドのTシャツを来た人達が集まってきた。その人たちはかなり年齢層が高い。が、ところどころ、そして最前列にはティーンエイジャーと思われる女の子達も見える。その子達の後ろ、ステージに向かって左側に場所を見つけて待つとほぼ予定通りにダムドの面々が現れた。キャプテン・センシブルはショッキングピンクのフェイクファーを着ている。派手!もう一人のオリジナルメンバー、デイヴ・ヴァニアンはさすがに白塗りはしておらず、だいぶぽっちゃりした感じで“いい人”っぽく見える。彼は真っ白な白衣のようなロングコートのようなものを着て黒い革手袋をはめている。彼らについて私はあまり良く知らず、ライブを見るのもこれが始めてだったがオープニングは「Strawberries」から「Ignite」。最初からスピード感のある軽快な演奏で観客を沸かせた。そして所々はいるキャプテンのMCがおかしい。観客が叫んでいると“ちょっと黙れよ。静かにしたら「Happy Talk」を演ってやるよ。”これを聞いて観客はもっと騒ぐ。キャプテンとデイヴはこの後に出演のストラングラーズのJJ バーネルとは仲が良いらしく彼らのことを文字って「The Strugglers(苦闘しもがく者達)」と言ってみたりしたが、“彼らはパンクバンドの中で唯一ウマが合うんだ”とも言っていた。
しばらくしてピンクのファーコートを脱いだキャプテンが下に着ていたのは黄色で大きくMと書かれたTシャツ。ぱっとみるとマクドナルドのMだが、実は別の意味の「マック(がらくた、汚物等の意味)。“後ろのマクドナルドで売っているんだよ”と。うそばっかり。
そんな感じであとは無駄なくテンポよく進むがやはり「New Rose」で観客のボルテージは最高に達したようだった。約45分程と短かったが、野外でも決して音も悪くなかったし非常に楽しいものだった。
さて次はいよいよ個人的なメイン、The Stranglers。やはりパンクの大御所で90年にヒュー・コーンウェルが脱退してからメンバーチェンジはあったものの、パンクムーブメントの時代から今まで一度も解散も活動停止もせずに突き進む唯一のバンドだ。そしてここギルフォードは「The Guildford Stranglers」というバンド名で彼らが活動を開始した場所でもある。その場所で彼らのライブを体験できることは非常に感慨深いものがある。
実は2月にリリースされた約6年振りの新譜のツアーをイギリスで3月に見たのだが、新譜の評判がよくバンドメンバー自身も非常にのっている感がある。真のライブバンドである彼らのステージは圧巻。ここ数年のライブをいくつか体験しているが、野外で見るのは83年のレディング・フェスティバル(!)以来。
8時近くになると待ちきれないファンが“ストラングラーズ!ストラングラーズ!”と合唱。当然この時はストラングラーズのTシャツを着た人たちが前方を中心に占めている。そして続けていつものように“ジェット・ブラック!ジェット・ブラック”。コアなファンの間ではジェットの存在は特別なようだ。司会者もステージ上からそんなファンを煽って間もなく、彼らのライブオープニングテーマ曲である「Waltzinblack」が流れる。歓声が一層大きくなる。これを聞くと“ああ、始まる!”と思いいやがおうでも気分がさらに高揚する。そして黒づくめのメンバーが登場。この気候だと真っ黒でも暑苦しくは見えないものだが実際この頃には大分涼しくなってきていて、最前列にいた私は前からの夜風に吹かれて身体の前面だけが少々冷える。が、後ろは体格のよろしい人が一杯連なっているし熱気で寒くない!
デイヴのキーボードから始まる新譜のタイトル曲である「Norfolk Coast」で幕を開け、最初から圧倒的なパワーと厚みのある演奏。出だし部分で少々PAの調子が悪かったようだが、すぐに直った。ステージ正面中央あたりは常にコアなファンの集まり。ほとんどが30、40代くらいの男性で叫び、歌いながらワッサワッサと揺れている。さすがに女性は窒息しそうであの中には入れないのだろう。でも私にもう少し体力があれば仲間に入れてもらいたい、と思ってしまうほどみんな心底楽しそうだ。
リードヴォーカルのポール・ロバーツはメンバーとなって既に14年、今では多くのファンに受け入れられるようになったようだ。本人はもちろん、バンドメンバーもそれを非常に嬉しく思っているとのこと。ステージでの彼はとにかくエネルギッシュで曲の合間に冗談も交える。そして“Thank you“の代わりにフランス語で”Merci”とも言えば、なぜか日本語で“どうもありがとう”と言う時もある。今回も「Always The Sun」の後に日本語で言っていた。観客には長年のファンで顔見知りも多いようでポールとJJはそんな顔を見つけては時折ステージ上から挨拶をする。ギタリストのバズはそれほど動き回らないが要所要所で素晴らしいギタープレイを聴かせてくれるし、「Mine All Mine」ではイカツイ外見からは思いもよらない高めの声でバックヴォーカルも披露。JJのベースラインは相変わらず強烈で身体の芯までズンズン響く。時折、例の片足を上げる「JJダンス」もする。そしてみごとな高い蹴り上げ、おまけになんと、両足を揃えてのジャンプも数回!今でもあれだけ高く跳べるのは空手で鍛えているからこそであろう。「ストラングラー」となって30年経ったが決して疲れてヨレてはいない。身のこなしも実に若々しく現役中の現役だ。
ライブの途中、後方からステージと観客の間のスペースに革ジャンやらカーディガンが投げこまれる。なんだろう、と思っていたのだが、ライブ終了後に男性が警備員に革ジャンを取ってもらい「途中からもう手に持っていられなくなって投げたんだ。ありがと!」と言っていた。要は、持っていられないし置く場所もないので前に投げ入れた、ということ。
彼らのステージは新譜「Norfolk Coast」からとヒュー在籍最後のアルバム「10」までの曲からほぼ半々、そしてKinksのカバーである「All Day And All Of The Night」から構成された。新旧取り混ぜているがどの曲もファンがみんな一緒に歌いコーラス部を担当。「Duchess」の最後の部分はポールはマイクを使わずファンに任せる。どれが特に盛り上がる、ということもなくどれも全部盛り上がる。だがやはり最後の「No More Heroes」は別格かもしれない。イントロのJJのベースが毎回アレンジされるのも楽しみだし、あの音だけでゾワ~ッと鳥肌が立つ。それからジェットのドラムがはいってきて一気に曲へとつながる。JJも引っ張り過ぎないし絶妙なタイミングとテンポで観客も引き込まれる。60歳を過ぎたジェットのドラミングも確実だ。
時々笑顔も見えるステージだったが、始めの方の演奏途中に突然JJが前にあったスピーカーを蹴ったことがあった。そしてステージのそでに向かって“どうなってるんだ?”というジェスチャー。翌日別の場所でのライブ前に彼と話す機会が得られてわかったことだが、どうやらスピーカーから自分の音が聞こえなかったらしくそれで蹴りをいれたとのこと。そんなことがあったので彼個人としては満足のできるパフォーマンスではなかったが、“なかなか自分に満足することはなく、だからこそ常に上をめざして継続できるのかもしれない。”と言っていた。そして“でも他のメンバーは素晴らしかったよ。”とも。
本当に、迫力のある実に素晴らしいライブだった。最近になってBBC RADIO 2が彼らのことを“英国音楽界の財宝”と呼んだそうで、ブリティッシュロックミュージックへの貢献度を今更ながら認知しているようだ。もともとメディアに敵の多かったバンドだが常に「最も過小評価されているバンドのひとつ」と言われてきた。“今ではそんな当時を知らない音楽関係者も増え彼らは何の先入観もなく評価する”とJJが言っていたが、そんなことから、遅まきながら再評価されてきたのだろう。もっと早くに正当な評価を受けていたべきバンドだ、と心から思う。
そしてこの日のトリ、Blondie。ご存知デビー・ハリー率いるNY出身のバンドだが、イギリスでもかなりの人気者。去年は日本のフェスにも出演。復活してからはオリジナルメンバーでギタリストのクリス・ステインとドラマーのクレム・バークの他に新しいメンバーをいれて精力的に活動しているようだ。
前の2バンドの時も同じだったが、ステージのセッティングが整うとメディアのカメラマンがステージ前のスペースに入れられるが、その数の多いこと!彼らは最初の数曲だけの間に撮影をするのでその後は視界を遮ることはない。
余談だが、このような野外のステージはパイプを使って組んであるものが多いのでステージ下や脇からステージの裏・後方が見える。ブロンディの出番を待っている間ふっと見るとステージ裏にピンクのファーコートを着たキャプテンがフラフラあるいているのが見えた。あのコートはとにかく目立つ。
さて9:30過ぎに大歓声で迎えられたブロンディのオープニングは「Atomic」。途中の「oh, your hair is beautiful」というくだりでは観客がみんな歌いながらデビーを指差す。デビーはとっても嬉しそう。しかしこの曲では彼女の声がほとんど出ていない印象で歌の半分くらいは観客にマイクを向けていた。曲によっては以前よりキーを下げて歌っているのは知っているがしょっぱなから少々心配になる。
だが次の「Dreaming」でそんな心配は不用なことがわかった。その後も「Hanging On The Telephone」「X-Offender」等初期の曲をやってくれて皆大喜び。私もこのあたりの曲に好きなものが多いが、他の観客もみんな良く知っていて大合唱だ。もちろん再結成してからのヒット曲「Maria」も好評だった。イギリスの夏の夜は寒かったのか、彼女は最初コートを羽織って出てきたがすぐにそれも取り去り、時にパントマイムのようなダンスをまじえてファンを魅了した。
若いと思われるキーボード奏者は途中かなり派手なパフォーマンスも見せたが、そのすぐ近くにいるクリスは相変わらずクール。淡々と全体を観察している雰囲気。ドラマーのクレムはパワフルで、上機嫌でライブを楽しんでいるようだった。途中デビーはギルフェスト主催者とイギリスのファンに感謝の言葉を述べながら「今日ここでダムドとストラングラーズと共にステージに立つことができて光栄だわ。」とも言っていた。
私の斜め後ろにいた男性、よほどのファンらしく途中で「Debbie, I love you! I DO!!!」と叫んだり、ステージ上の彼女に向かって熱心にメッセージを叫んでいたのが印象に残っている。
残念ながら我々は日帰り予定だったので10:30頃にその場を出なければならず、後ろ髪を引かれながらも残りは出口に向かいながら聴いていた。「Call Me」が遠くに聞こえる。。。
このストーク・パークに入る時にはそれほど埋っていなかった駐車場も出る時には満杯。キャンプ場もかなり広そうなのできっと3日間楽しむ人が多いのだろう。
この日観た3バンドは共に長いキャリアを持つ、いわゆるパンクの時代に出てきたバンド。今日まで紆余曲折それぞれの道を歩んできたが、ここでまたこうして彼らのライブが体験できることは非常に嬉しい。しかも今回はそれが1日に凝縮されていたのだから運が良かった。面子によっては来年も、できればのんびりとまた来たいな、と思わせる一日だった。(Yuka Takahashi)
【All photos by Yuka Takahashi】